福山市「タカオ スケートパーク 福山」住民監査請求に係る監査結果

住民監査請求に係る監査結果

第1 監査の請求

1 請求書の提出

2022 年(令和4 年)11 月22 日に,地方自治法(昭和22 年法律第67 号。以下「自

治法」という。)第242 条第1 項の規定により監査請求書の提出があった。

また,同年12 月19 日に,同項の規定により監査請求書の提出があった。

2 請求人

(省略)

3 請求の要旨

(1) 2022 年(令和4 年)11 月22 日付け監査請求の要旨

2022 年(令和4 年)11 月22 日付け監査請求(以下「第1 請求」という。)の要旨

は,当該監査請求書及び補正書によれば,次のとおりである。

福山市長による「タカオスケートパーク福山」(以下「本件施設」という。)への

公金の支出(本件施設の維持管理に要する経費,本件施設を利用するイベント・行

事に係る経費その他本件施設が今後も存続することによって発生する全ての経費)

は,福山市の治安を害するものであり,かつ,福山市民の生命,身体に危害を加え

る恐れがあるため,本件施設を廃止し,更地にして,今後公費でスケートボードを

振興できないようにすることを求める。

福山市では,スケートボードのマナーがあまりにも悪すぎる。これまで,請求人

の近所等で,深夜にスケートボードをする者が多く,非常に迷惑している。特に,

福山駅前交番横の地下道では,人ごみの中で傍若無人にスケートボードをする者が

後を絶たない。請求人は何度も110 番通報をしているが,犯罪ではないので,警察

も注意で済ませてしまい,事実上野放しである。このような状況では,いつ福山市

民に対して死傷事故が発生してもおかしくない。請求人は再三にわたり福山市に罰

則付きのスケートボード取締条例の制定を求めたが,無視されている。

スケートボードのマナーが悪い理由の一つに,スケートボードの美化があるのは

明らかである。福山市長は,スケートボードを美化し,スケートボードで人を殺す

ための予算を制定して,本件施設を維持している。このような予算の執行は,公序

良俗に反する違法なものである。

(2) 2022 年(令和4 年)12 月19 日付け監査請求の要旨

2022 年(令和4 年)12 月19 日付け監査請求(以下「第2 請求」という。)の要旨

は,当該監査請求書によれば,次のとおりである。

福山市が整備を始めた初級ボーダー用パーク(本件施設に隣接した場所に整備す

る初級者向けスケートボードパーク。以下「増設施設」という。)の建設の中止と,

スケートボード振興に関する一切の公金の支出を禁止することを求める。

増設施設は,スケートボードマナー違反解消を口実に建設を開始しているが,同

様の理由で本件施設が建設されたにも関わらず,マナーの悪さは解消していない。

スケートパークが必要ならば,愛好家等が自分たちで建設すべきであり,福山市の

公金を使う必要性はない。今回の工事費は,税金の無駄遣いであり,かつ,不必要

な支出である。

第2 請求の受理及び監査の併合

第1 請求については,2022 年(令和4 年)11 月24 日に提出された補正書と併せ,

自治法第242 条に規定する要件を具備しているものと認め,受理した。

第2 請求についても,同様に要件を具備しているものと認め,受理した。

第1 請求及び第2 請求(以下これらを「本件請求」という。)は,同一の理由に基づ

くものであり,併合して監査を実施することとした。

第3 監査の対象

1 監査対象事項

住民監査請求の対象となる財務会計上の行為

自治法第242 条第1 項では,「普通地方公共団体の住民は,当該普通地方公共団体

の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について,違法

若しくは不当な公金の支出,財産の取得,管理若しくは処分,契約の締結若しくは

履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確

実さをもって予測される場合を含む。)と認めるとき,又は違法若しくは不当に公金

の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)が

あると認めるときは,これらを証する書面を添え,監査委員に対し,監査を求め,

当該行為を防止し,若しくは是正し,若しくは当該怠る事実を改め,又は当該行為

若しくは怠る事実によって当該普通地方公共団体の被った損害を補填するために必

要な措置を講ずべきことを請求することができる」旨規定している。

上記の規定及び請求の要旨から,本件請求の監査対象事項を次のとおりとした。

(1) 監査対象となる財務会計上の行為について

本件施設の存続,増設施設の建設その他スケートボード振興に関し今後発生す

る公金の支出のうち,本件請求において対象となる財務会計上の行為は何か。

(2) 当該財務会計上の行為は,公序良俗に反し,又は税金の無駄遣いであり,違法

又は不当であると言えるか。

(3) 当該財務会計上の行為が違法又は不当である場合に,公金の支出差止めに加え,本件施設の廃止及び更地にすることを求めることができるか。

2 監査対象部局

市民局まちづくり推進部

建設局土木部,都市部

第4 請求人の証拠の提出及び陳述

1 請求人に対して,自治法第242 条第7 項の規定により,2022 年(令和4 年)12 月5

日に第1請求に関し新たな証拠の提出及び陳述の機会を与えた。

2022 年(令和4 年)11 月29 日に請求人から陳述書及び新たな証拠が提出され,当

日は,請求人が第1 請求の要旨を補足する陳述を行った。

2 陳述の要旨は,次のとおりである。

今回監査請求をした理由は,福山市におけるスケートボードのマナーがあまりにも

悪すぎるということであり,そのマナーの悪い理由の1つが本件施設の存在ではない

かと考えている。本件施設がなかったころもスケートボードのマナーが悪かったが,

その時のマナーの悪い人間の言い分は,滑るところがないということであった。その

ためか,福山市は税金で本件施設を作り,滑る場所を作ったが,その結果,マナーが

向上したかというと,そんなことはない。いまだに,福山駅前交番横の地下道や,請

求人の自宅の横の歩道などで,傍若無人に走る姿が見受けられる。11 月29 日付けの陳

述書に添付の新聞記事は全部本件施設ができた後の記事であり,結局本件施設はマナ

ー向上には全く役に立たないどころか,マナーの悪いスケートボードの行為を美化す

ることにつながっているのではないかと思う。このようなマナーの悪い行為を美化す

るような施設を今後も税金で維持することは,税金の無駄遣いではないかと考える。

最近でも市スポーツ振興課主催で大会が行われている。市スポーツ振興課も,マナ

ー向上についてはフェイスブックなどを見ても全く訴えていない。むしろ野放し状態

である。本件施設については,大会の時以外は本件施設とは関係ない場所でスケート

ボードで走ることが多いので,美化につながるのであればもう不要だというのが請求

人の意見である。

3 第2 請求に関する陳述は,請求人から必要はない旨の意思表示があり,実施しなか

った。

第5 関係機関の陳述等

1 市民局まちづくり推進部並びに建設局土木部及び都市部に対して意見の陳述(請求

人の陳述に対する見解を含む。)及び関係資料の提出を求めたところ,当該機関から陳

述書及び関係資料の提出があった。また,2022 年(令和4 年)12 月19 日に陳述内容

を補足するため,当該関係機関の職員から聴取を実施した。

2 陳述等の要旨は,次のとおりである。

(1) 本件施設の設置経過,目的等について

芦田川の利活用を促進するための芦田川緑地かわまち広場(以下「かわまち広場」

という。)の整備に当たり,利用者や市民の意見を反映させる場として設置した,「あ

しだがわ利活用推進委員会」において,市民団体から,スケートボードパークの設

置について提案があった。市議会においても,東京2020オリンピックの正式種

目になったスケートボードが,市内の公園では禁止されていることから,居場所づ

くり,にぎわいの創出という観点から,かわまち広場へのスケートボードパークの

整備を求める要望が上がっていた。このため,スケートボードパークの設置を計画

したものである。

なお,本件施設内での事故等に対する安全対策として,定期的に巡回を行うとと

もに,利用ルールやマナーを守ってもらうため,事前の利用者登録制度を導入した

ところである。

(2) 増設施設の建設経過,目的等について

2020 年(令和2 年)3 月の本件施設の完成後もマナー違反が見られることから,

同年7 月及び11 月には,警察,公園管理者,道路管理者が連携してパトロールを実

施した。これは,マナー啓発に取り組むなどと同時に,本件施設の周知と本件施設

への誘導をめざしたものである。

2021 年(令和3 年)8 月に東京2020オリンピックが開催され,スケートボー

ドの認知度が上がったことから,同月には危険行為や迷惑行為が繰り返されている

原因を把握するため,市内の公園やスケートボード販売店においてヒアリング調査

を実施した。その結果,本件施設は混雑している,初級者にとっては難易度が高い,

夜間利用できないなど,多くの人がやむなく他の場所を利用していることが判明し

た。こうした調査結果を踏まえ,市では,本件施設に隣接した場所に,初級者用の

スケートボードパークを増設することを決め,現在整備工事に着手しているところ

である。同時に,本件施設及び増設施設への照明設備の設置についても,検討とな

っているところである。

(3) 本件施設設置後も,スケートボードのマナー向上がなく,スケートボードを美化

する本件施設に対する公金の支出は無駄遣いであるという請求人の主張について

本件施設設置後,スケートボードを始める人が増えたものと思われるが,その主

な原因は,東京2020オリンピックにあると考えている。本件施設は,東京20

20オリンピックの影響により,スケートボードがスポーツとして普及することが

見込まれることから,その受け皿として整備したものである。よってマナー向上に

欠く本件施設に対する公金の支出は税金の無駄遣いであるという,請求人の主張は

当たらないものと考えている。

(4) マナー向上の取組及び啓発の具体について

2021 年度(令和3 年度)及び2022 年度(令和4 年度)に,エフピコアリーナふく

やま(福山市総合体育館)のコンセプトである,全ての人に開かれた,スポーツに

よるにぎわいづくりの拠点を実現するため,エフピコアリーナふくやま周辺の施設

を活用した事業を行っている。その中で,スケートボード教室を開催している。教

室においては,講師から,本件施設内でのマナー,その他禁止場所で滑走しない,

迷惑行為は行わないなどのマナー啓発を行っているところである。当該事業を委託

した民間事業者とマナーブックを作成し,2022 年(令和4 年)11 月19 日開催の教

室以降,マナーブックの配布を行っている。マナーブックについては,教室での参

加者への配布に加え,市内にある2 箇所のスケートボード販売店,3 箇所のスポーツ

用品店にも設置し,啓発を行っているところである。

また,市としては,公園でのスケートボードによる迷惑行為・危険行為,交通量

の多い道路でのスケートボードの使用は禁止している。このような迷惑行為・危険

行為を防ぐため,禁止看板の設置や警察と連携したパトロールなども行っている。

マナーについては,全てのスケートボーダーのマナーが悪いかというと,そうで

はない。一部の人が滑走してはいけないところで滑り,危険な滑り方をしているこ

とが問題になっている。幅広くマナー啓発を地道に行っていく必要があると考えて

いる。現在,マナーブックを作成し,教室での啓発活動を行っているが,今後は学

校においても啓発するなど,マナー向上の活動を行いたいと考えている。

第6 監査の結果

(本文)

本件請求については,監査委員合議の結果,次のとおり決定した。

本件請求については,理由がないものと判断し,「棄却」する。

(理由)

各請求内容に係る監査委員の判断の理由は,次のとおりである。

1 本件施設及び増設施設の概要

(1) 本件施設について

本件施設は,本市千代田町一丁目ほかの1 級河川芦田川の河川敷に整備された,

かわまち広場の中にあるスケートボード及びインラインスケート専用施設である。

かわまち広場は,本市が設置及び管理を行う,都市公園法(昭和31 年法律第79

号)第2 条の2 の規定に基づく都市公園であり(2020 年(令和2 年)3 月20 日供用

開始),隣接するエフピコアリーナふくやま及び総合体育館公園との利活用における

相乗効果を図るため,エフピコアリーナふくやま2 階と連絡橋で連結されている。

かわまち広場は,福山市都市公園条例(昭和41 年条例第64 号)第34 条の2 の規

定に基づき,総合体育館公園と併せて,公益財団法人福山市スポーツ協会が指定管

理者として管理を行っている。

本件施設は,面積約1,000 ㎡,全面コンクリート舗装されている。初級者,中級

者を主な対象としており,アップ・練習エリア(初級者向け),直線的セクション・

回遊式セクション(中級者向け)などがある。

本件施設の開場時間は,午前6 時から日没までとなっており,休場日はない。利

用に当たっては,事前の利用者登録が必要である。

(2) 増設施設について

増設施設は,かわまち広場において,本件施設に隣接する場所に,初級者向けス

ケートボードパークとして整備するものである。面積約1,000 ㎡,全面コンクリー

ト舗装の予定である。本件施設は初級者,中級者を対象としているが,初級者には

難しいことと,本件施設が混雑していることから,増設するものである。

2 監査対象となる財務会計上の行為について

本件施設の存続,増設施設の建設その他スケートボード振興に関し今後発生す

る公金の支出のうち,本件請求において対象となる財務会計上の行為は何か。

(1) 本件施設及び増設施設に係る2022 年度(令和4 年度)に支出された公金

ア 財務会計上の行為には,支出負担行為,支出命令及び支払があり,それぞれ別

個の行為とされる。この一連の行為の中で,例えば,支出負担行為があるが,支

出命令や支払が行われていない場合,支出負担行為に基づき,今後支出命令及び

支払が行われることになる。

また,翌年度以降に支出が予測される公金を直ちに特定することは困難である

が,経費の性質によっては,支出金額までの特定はできないとしても,相当の金

額が今後相当の確実さをもって支出が予測されるかどうか判断できるため,まず

はこれまでに支出された公金を調査し,翌年度以降相当の確実さをもって支出が

予測されるかどうかについて検討した。

イ 2022 年度(令和4 年度)に支出された公金は,別表に掲げるとおりである。

このうち,「2022 年度総合体育館公園等指定管理料」は,その一部に本件施設に

関わる経費を含むものであるが,本件施設に関わる部分と総合体育館公園及び本

件施設以外のかわまち広場に関わる部分を区分することは,人件費を始めとして

困難である。

同様に,「エフピコアリーナふくやま一帯の賑わい創出実施業務委託」に係る委

託料についても,その一部に本件施設を利用したスケートボード教室等の経費を

含むものであるが,委託期間終了後の事業報告により内訳が確定するので,それ

までは本件施設に関わる部分とそれ以外の部分を区分することは困難である。

(2) 令和4 年度予算に計上されているが,2023 年(令和5 年)1 月10 日現在支出が行

われていないもの

別表に記載したもののほか,支出負担行為は行われていないが,令和4 年度福山

市一般会計予算(当初)に計上されているものとして,本件施設及び増設施設への

照明設備整備費(款:土木費,項:都市計画費,目:緑化事業費,事業:市単独事

業費のうち,増設施設の整備費と合わせて67,000 千円)がある。

(3) その他

上記以外にスケートボードの振興に関する予算,支出はない。

(4) 別表及び前記(2)に記載した公金の支出は,相当の確実さをもって予測されるか。

ア 別表に掲げる公金の支出のうち,相当の確実さをもって支出が予測されるもの

は,次のとおりである。

(ア) 「2022 年度総合体育館公園等指定管理料」については,本件施設に関わる部

分を特定することはできないが,本件施設に関わる一定の部分が含まれるもの

と認められる。しかし,2022 年(令和4 年)4 月1 日の支出負担行為額28,188,000

円の全額について,2023 年(令和5 年)1 月10 日現在支払まで終わっている。

なお,2020 年(令和2 年)1 月27 日付け「指定管理者指定書」及び「総合体

育館公園等に関する基本協定書」に基づき,本件施設を含むかわまち広場につ

いて,2023 年度(令和5 年度)末まで指定管理者に指定管理を行わせることと

なっており,債務負担行為も設定されている。年度協定で定めることとされて

いる指定管理料の額は確定できないものの,本件施設に関わる経費を含む2023

年度(令和5 年度)の指定管理料が支出されることは,相当の確実さをもって

予測される。

(イ) 「エフピコアリーナふくやま一帯の賑わい創出実施業務委託」に係る委託料

については,本件施設に関わる部分を特定することはできないが,2022 年(令

和4 年)8 月26 日に支出負担行為(4,999,990 円)が行われており,支出命令

及び支払は,2023 年(令和5 年)1 月10 日現在行われていない。今後,事業実

施状況により支出負担行為額が多少変更になる可能性はあるが,本件施設に関

わる経費を含む委託料の支出命令及び支払が行われることは確実である。なお,

2023 年度(令和5 年度)以降の事業の実施については,決定されていない。

(ウ) 「芦田川緑地かわまち広場スケートボードパーク整備工事」に係る工事請負

費については,2022 年(令和4 年)10 月17 日に支出負担行為(31,904,730 円)

が行われており,支出命令及び支払は,2023 年(令和5 年)1 月10 日現在行わ

れていない。今後,支出命令及び支払が行われることは確実である。

イ 前記(2)の照明設備の整備に係る予算については,令和4 年度予算に計上されて

おり,事業課において検討中であるものの,今後相当の確実さをもって事業費の

支出が予測される。

(5) 以上により,本件請求において対象となる財務会計上の行為は,次のとおりであ

る。

① 「総合体育館公園等指定管理料」について,2023 年度(令和5 年度)指定管

理料(本件施設に関わる部分に限る。)の支出

② 「エフピコアリーナふくやま一帯の賑わい創出実施業務委託」に係る委託料

4,999,990 円の支出命令及び支払(本件施設に関わる部分に限る。)

③ 「芦田川緑地かわまち広場スケートボードパーク整備工事」に係る工事請負

費31,904,730 円の支出命令及び支払

④ 令和4 年度予算に計上された,本件施設及び増設施設への照明設備整備費に

係る支出

3 当該財務会計上の行為は,公序良俗に反し,又は税金の無駄遣いであり,違法又

は不当であると言えるか。

請求人は,スケートボーダーのマナーの悪さから,スケートボードを美化する本件

施設に係る公金の支出が公序良俗に反する違法なものである,また,スケートボード

パークが必要ならば,愛好家が自分たちで建設すべきであり,増設施設の建設に公金

を使う必要はないと主張する。さらに,本件施設の設置前後で,スケートボーダーの

マナーの悪さは変わらず,本件施設はマナー向上に役立っていないので,本件施設を

維持すること及び増設施設を建設することは税金の無駄遣いであると主張する。

よって,本件施設又は増設施設に係る公金の支出が,公序良俗に反し,又は市長の

裁量権の範囲の逸脱若しくは濫用によりなされた財務会計法規に違反した違法又は不

当なものであるかどうか,本件施設はマナー向上に役立っていないので,本件施設を

維持すること及び増設施設を建設することは税金の無駄遣いであり,本件施設又は増

設施設に係る公金の支出が違法又は不当なものであるかどうかについて,検討する。

(1) 本件施設又は増設施設が公序良俗に反する違法なものかどうか。

まず,本件施設又は増設施設が公序良俗に反する違法なものかどうかについて,

判断する。本件施設又は増設施設が公序良俗に反する違法なものであるならば,こ

れらに係る公金の支出もまた違法になることが考えられるからである。

民法(明治29 年法律第89 号)第90 条は,「公の秩序又は善良の風俗に反する法

律行為は,無効とする」と規定している。「公の秩序」とは国家社会の一般的利益を

意味し,「善良の風俗」とは,社会の一般的道徳観念を指すが,両者の区別は必ずし

も明瞭ではなく,具体的に,ある行為が公の秩序又は善良の風俗(以下「公序良俗」

という。)に反するかどうかは,社会慣行と時代の倫理思想を探求して認定するべき

ものであるとされている。

そこで,本件施設の設置経過,目的,運営状況等又は増設施設の建設経過,目的

等から,本件施設又は増設施設が公序良俗に反すると言えるかどうかについて,判

断する。

ア 本件施設の設置経過,目的等

(ア) 本件施設の設置に当たっては,具体的な整備案について,市や河川管理者の

ほか,自治会連合会や河川利用団体も構成員とする「あしだがわ利活用推進委

員会」の意見を聞きながら,策定している。同委員会は,芦田川水辺空間の利

活用及び保全の具体について検討を行い,芦田川の水辺環境の向上を図るとと

もに,持続可能な利活用の促進及び保全に寄与する計画を策定することを目的

に設置されたものである。

(イ) 本件施設の設置目的は,東京2020オリンピックを契機に増加が予測され

たスケートボーダーの受け皿とするものである。

(ウ) 整備区域が芦田川の河川区域内であることから,土地の占用及び工作物の新

築について,河川法(昭和39 年法律第167 号)第24 条及び第26 条第1 項の許

可を受けている。また,許可内容に変更が生じたため,変更の許可を受けてい

る。

(エ) かわまち広場は,2020 年(令和2 年)3 月20 日に供用を開始した。本件施設

についても,同日供用を開始した。

イ 本件施設の運営状況

(ア) かわまち広場は,指定管理者である公益財団法人福山市スポーツ協会が管理

を行っている。

(イ) 本件施設の利用に当たっては,利用者が安全に本件施設を利用するため,福

山市都市公園条例第7 条第2 項及び福山市都市公園条例施行規則(昭和41 年規

則第72 号)第5 条の2 第1 項の規定により,利用者登録が必要となっている。

利用者登録申請に当たり,本件施設利用のルールを守り,施設管理者の指示に

従い利用する旨の誓約書に署名させている。

利用登録者数は,2022 年(令和4 年)11 月30 日現在,1,278 人である。

(ウ) 本件施設は,河川区域に設置された屋外施設であり,職員は常駐しておらず,

利用者登録を行った者は,開場時間内であれば自由に利用できる。利用者は,

お互いに譲り合いながら,利用する必要がある。このため,指定管理者は,1 日

4 回定時に巡回し,マナー違反の利用者を発見した場合は,注意を行っている。

ウ 増設施設の建設経過,目的等

(ア) 本件施設の設置後においても,かわまち広場や市内の公園,道路においてス

ケートボードによる迷惑行為が引き続き見られたことから,その原因を調査し,

スケートボードパーク増設の必要性とスケートボードマナー向上のための対策

方法を検討することとした。当該調査検討業務は,民間事業者に委託して実施

した。

(イ) 調査内容は,かわまち広場を始め公園6 箇所(福山城公園周辺の路上を含む。)

及びスケートボード販売店2 箇所でのスケートボード利用者に対するヒアリン

グ調査(2021 年(令和3 年)8 月実施。以下「利用者ヒアリング」という。)と,

先進自治体へのヒアリング調査(2022 年(令和4 年)2 月実施)である。

(ウ) 調査結果の概要は,次のとおりである。

公園や道路でスケートボードをすることは法令の制約がある一方で,スケー

トボードが東京2020オリンピックの正式種目となり,男女ともに金メダル

を獲得したことにより,スケートボーダーが増加していることから,スケート

ボードを利用できる場所が少ないと分析した。また,利用者ヒアリングから,

利用場所を増やすこと,夜間利用できる場所を増やすこと,施設の充実したス

ケートボードパークを整備することへのニーズが多いことが分かった。他方,

本件施設については,夜間の利用ができない,混雑している,初心者には難し

いとの利用者の不満があることも分かった。

先進自治体へのヒアリングでは,マナー向上には当事者たちとの意見交換が

重要,施設整備後約3 年経過し,施設に対する苦情はほぼなくなった,スケー

トボーダーリーダーや地元スケートボーダーによる周知がよい方向に向かって

いる,スケートボーダーリーダーからのSNS 等による配信や見守りが効果的と

の回答を得ている。

(エ) 調査結果により,スケートボード利用場所の増設ニーズがあったこと,及び

本件施設への不満から多くの者がやむを得ず公園等を利用していると考察した

ことから,本件施設の隣接地に,初級者用のスケートボードパークを増設する

こととし,2022 年(令和4 年)10 月17 日に「芦田川緑地かわまち広場スケー

トボードパーク整備工事」請負契約を締結したものである。

(オ) 増設施設の整備に当たっては,土地の占用の変更及び工作物の新築について,

河川法第24 条及び第26 条第1 項の許可を受けている。

エ 以上によれば,本件施設及び増設施設について次の点が認められる。

(ア) 本件施設の設置に当たっては,行政が単独で決定したのではなく,本市や河

川管理者のほか,自治会連合会や河川利用団体も構成員とする「あしだがわ利

活用推進委員会」の意見を聞きながら,具体的な整備案を策定していること。

(イ) かわまち広場の設置に当たっては,河川法の規定に基づく河川区域内の土地

の占用許可及び工作物の新築許可を受け,増設施設の建設に当たっても,必要

な河川法上の許可を受けており,所定の手続を踏んでいること。

(ウ) 本件施設は,東京2020オリンピックを契機に増加が予測されたスケート

ボーダーの受け皿として設置したものであること。

(エ) 増設施設の建設に当たっては,利用者ヒアリングの結果も踏まえ,施設の必

要性,内容等を検討し,決定していること。また,増設施設の供用開始により,

利用機会が増加することで,結果として禁止場所での迷惑行為の抑制につなが

ることが考えられること。

(オ) 後記のとおり,本件施設などを活用したスケートボード教室等の実施により,

マナー向上が図られることが期待できること。

オ スケートボードについて

さらに,請求人は,深夜にスケートボードをして他人に迷惑をかけ,あるいは

死傷事故発生の恐れがあることをもって,スケートボードをするための施設であ

る本件施設に対する公金の支出が公序良俗に反する違法なものと主張しているの

で,スケートボードについて触れておく。

スケートボードは,車輪が地面に接することにより,摩擦音が出る。アスファ

ルトなど,表面が固く,少し凸凹があれば,大きな音となる。特に,夜間,道路

等で滑れば,騒音と感じ,迷惑に思う市民が存在することは否定できない。また,

公共空間では,他の歩行者等との接触事故の恐れがないとは言えない。

しかし,一部の者によるこのような迷惑行為があることをもって,スケートボ

ード自体が悪であるとか,迷惑なスポーツであるなどとは言えない。東京202

0オリンピックで正式種目に採用されたように,スケートボードはスポーツとし

て広く認知されている。

本件施設を含む本市の特徴的な施設資源を活用し,スポーツ人口の裾野を広げ

るとともに,エリア一帯の賑わい創出を目的に実施する「わがまちスポーツ推進

事業」は,2021 年度(令和3 年度)及び2022 年度(令和4 年度)の市の重点政策

となっている。

カ 以上のことから,本件施設及び増設施設は,公序良俗に反するものとは言えな

い。そうすると,本件施設及び増設施設に係る公金の支出は,財務会計法規に違

反する違法なものと言うことはできない。

(2) 本件施設又は増設施設に係る公金の支出が市長の裁量権の範囲の逸脱又は濫用に

よりなされたものかどうか。

ア 前記(1)のエの(ア)から(ウ)まで及び(オ)並びに前記(1)のオに記載のとおり,市と

して相当の手続を経た上でスケートボード用の施設を整備することは,スポーツ

として広く認知されているスケートボードの利用者の増加が予測される中,合理

性・妥当性に欠けるものとは言えず,本件施設の設置について及び本件施設に係

る公金の支出について,市長に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったとは認めら

れない。

イ 前記(1)のエの(エ)に記載のとおり,増設施設の建設については,利用者ヒアリ

ングの結果も踏まえ,施設の必要性,内容等を検討し,決定していること,また,

増設施設の供用開始により,利用機会が増加することで,結果として禁止場所で

の迷惑行為の抑制につながることが考えられることから,合理性・妥当性に欠け

るものとは言えず,増設施設に係る公金の支出について,市長に裁量権の範囲の

逸脱又は濫用があったとは認められない。

(3) 本件施設又は増設施設に係る公金の支出が税金の無駄遣いであるかどうか。

次に,請求人は,本件施設の設置前後で,スケートボーダーのマナーの悪さは変

わらず,本件施設はマナー向上に役立っていないので,本件施設を維持すること及

び増設施設を建設することは税金の無駄遣いであると主張するので,その点につい

て判断する。

ア 本件施設の利用状況

(ア) 指定管理者が1 日4 回の巡回時に確認した利用者数を基に推定した2021 年(令

和3 年)4 月から2022 年(令和4 年)10 月までの月当たりの利用者数は,2021

年(令和3 年)11 月の最大762 人から同年9 月の最小31 人まで,平均では407

人となっている。大雨等により本件施設が利用できない日が多い夏期及び厳冬

期である1・2 月の利用は少ない。照明がなく,夜間の利用ができないことを考

えると,相応の利用があると考えられる。利用者ヒアリングからも,時間帯に

よっては混雑するほどの利用があると思われる。

(イ) また,2021 年度(令和3 年度)及び2022 年度(令和4 年度)に市の委託事業

として実施した「エフピコアリーナふくやま一帯の賑わい創出実施業務」の一

環として,本件施設を利用したスケートボード教室等を行っている。委託先は

民間事業者である。

2021 年度(令和3 年度)は,新型コロナウイルス感染症の拡大によるまん延

防止等重点措置の実施に伴い,1 月及び2 月に予定されていた事業が中止された

ものの,10 月から12 月にかけて,初心者の小学生向け教室を3 回(定員120 人

に対し参加113 人。参加率94%),経験者向け教室を3 回(定員60 人に対し参

加41 人。参加率68%),小学生とその保護者向けの体験会を1 回(定員40 人に

対し参加38 人。参加率95%),部門別コンテストを1 回(定員60 人に対し参加

29 人。参加率48%)の8 事業を実施している。

2022 年度(令和4 年度)は,11 月30 日現在,初心者向け体験会を2 回(定

員40 人に対し参加33 人。参加率83%),初級者向け教室を1 回(定員20 人に

対し参加20 人。参加率100%),中級者向け教室を1 回(定員20 人に対し参加

20 人。参加率100%),部門別コンテストを1 回(定員130 人に対し参加111 人。

参加率85%)の5 事業を実施している。

参加率は,概ね80%を超えており,スケートボードに対する市民の関心と,

教室等のニーズがあることが伺える。

 

イ 本件施設及び増設施設はマナー向上に寄与しているか。

本件施設は,東京2020オリンピックを契機に増加が予想されたスケートボ

ーダーの受け皿として設置されたものであるが,本件施設の利用登録者数や前記

アの利用状況から,本件施設が迷惑行為の抑制に一定の役割を果たしていること

を否定することはできないと考える。

また,増設施設は,前記(1)のエの(エ)のとおり,利用者ヒアリングの結果も踏

まえて,施設の必要性,内容等を検討し,建設を決定しており,増設施設の供用

開始によって,利用機会が増加することにより,迷惑行為の抑制につながると考

えられる。

さらに,本件施設などを活用したスケートボード教室等でのマナー啓発を今後

も継続して行うことにより,マナー向上に寄与できると言える。

以上により,本件施設がスケートボーダーのマナー向上に役立っていないとは言

えないことから,本件施設を維持すること及び増設施設を建設することは税金の無

駄遣いであるとの主張は,理由がない。

4 結論

以上のとおり,本件施設及び増設施設は,公序良俗に反する違法なものとは言えず,

本件施設及び増設施設に係る公金の支出についても,違法なものとは言えない。また,

これらについて,市長に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとは認められない。

さらに,本件施設を維持すること及び増設施設を建設することは税金の無駄遣いで

あるとは言えず,本件施設及び増設施設に係る公金の支出は,違法又は不当なものと

は言えない。

よって,監査対象事項の(3)について判断するまでもなく,本件請求は棄却されるべ

きものである。

第7 付記

本件施設及び増設施設に係る公金の支出が違法・不当なものと言えないことは以上

のとおりであるが,一部のスケートボーダーにより,依然として迷惑行為が発生して

いる状況が見られる。本市では,スケートボーダーが特に多い大規模公園では禁止看

板の掲示や管理者による巡回を行い,JR福山駅周辺では地下通路への禁止看板の掲

示や警察による注意などが行われているものの,引き続きその減少に向けて努力する

必要があると考える。

今後も,公園や路上などで迷惑行為が発生している状況を把握し,注意喚起や啓発

など,継続してマナー向上に一層取り組むとともに,先進自治体での事例を参考に,

スケートボーダーリーダーやスケートボード販売店などと連携するなど,より効果的

な対策を検討されたい。

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